ユップ・ベヴィン

ユップ・ベヴィン

作曲、ピアノ

オランダ出身の、ユップ・ベヴィンは、2メートルを超える長身にワイルドな髪と流れるような顎ひげ、まるで童話に出てくる優しい巨人のようなピアニストである。しかし、彼の控えめで、心に染み入るような、哀愁漂う演奏からは彼が巨人の中でも最も優しいそれであることが伺い知れ、その繊細なメロディーは魂を癒してくれる。ベヴィングの音楽は、より優しく、より希望に満ちた未来へのサウンドトラック、まだ見ぬ人生という映画のための総譜である。ユップ・ベヴィンの音楽は、彼の他の側面同様、幸運とタイミングに恵まれている。 ベヴィンは14歳で結成したバンドで、地元のジャズフェスティバルでのライブデビューを果たした。音楽院に通い音楽家とになろうとしていたが、手首を痛めピアノの勉強を断念した。公務員として生きることを覚悟し、経済学の学位取得に専念した際は、音楽界の損失が行政の利得となるかと思われたが、音楽の魅力はあまりにも強かった。音楽家と公務員という相反する2つの道の間に妥協点を見つける形で、優良企業におけるブランドとのマッチングや音楽制作に10年間従事した。余暇には、オランダで人気のニュージャズ・バンドスキャリマティック・オーケストラや自称「エレクトロソウルホップジャズ集団」Moody Allenでキーボードを演奏したり、自身のワンマンプロジェクトI Are Giantでエレクトロニカに取り組むなどしていた。広告界のアカデミー賞と呼ばれるライオンズ・フェスティバルでカンヌを訪れた際、ホテルのグランドピアノで自作曲を演奏したところ、人々が涙を流し始めたことが転機となった。反響に勇気づけられたベヴィンは、アムステルダムの自宅に親しい友人らを招きディナーパーティーを開き、2009年に亡くなった祖母が遺したピアノで自作曲を演奏した。その1カ月後、親友の一人が急死し、その葬儀のためにも作曲を行った。 その反応に触発された彼は、さらに曲を書き、その後3ヶ月間、真夜中、ガールフレンドと2人の幼い娘が眠っている間に、キッチンで演奏をしながら1テイクずつの録音を重ねた。そして完成したのが、デビュー・アルバム『Solipsism』である。2015年にはファッションデザイナー、ハンズ・ユービンクのスタジオでアルバムの発売イベントを行い、そこで初演を行った。その最初のビニール盤は主に友人たちの間ですぐに完売したが、曲はSpotifyで瞬く間にヒットした。彼の曲〈The Light She Brings〉はニューヨークに本社を構えるSpotifyの人気プレイリスト「Peaceful Piano」に加えられた。『Solipsism』はインターネット上で大きな反響を呼び、もう1枚のアルバム『Sleeping Lotus』も再生回数3000万回を記録した。両アルバムに収録された全ての曲の合計再生回数は1億8000万回以上に上る。インターネット上での爆発的ヒットを受け、オランダ国内のゴールデンタイムのテレビ番組で演奏を披露。翌日にはアルバムがワン・ダイレクションに代わってヒットチャート1位に浮上した。 アムステルダムの名門コンセルトヘボウでのソロリサイタルなど、コンサートプロモーターからオファーが殺到した。また別の友人が自身の経営する地元のバーで演奏したことをきっかけに、彼のアルバムはベルリンにまで渡った。偶然にもバーの客人の一人が、世界有数のクラシックレーベル、ドイツ・グラモフォンの重役だったのだ。ベルリン、クリストフォリ・ピアノサロンでの公演で面会を果たした後、ベヴィンはグラモフォンと契約することになった。