イルダル・アブドゥラザコフ

イルダル・アブドゥラザコフ

バス

イルダル・アブドゥラザコフは、オペラのバスのアリアに生命を吹き込むために不可欠な声量、芸術的雄弁さ、舞台での魅力的な存在感に恵まれた数少ない歌手の一人である。多くのバス歌手であればまだ成熟し始めるばかりの年齢でオペラ界の頂点に立つことに成功した人物でもある。モーツァルトの《フィガロ》、ロッシーニやドニゼッティのオペラ・ブッファ、ヴェルディの《アッティラ》《オベルト》《フィリッポ2世》など、複雑な役柄を得意とし、世界の主要歌劇場、コンサートホールで高い評価を得ている。 アブドラザコフは、ソビエト連邦バシキリア共和国(現在のバシコルトスタン共和国)の首都であったウファで生まれた。映画やテレビのディレクターであった父は、若き日のイルダルの音楽の才能を認め、地元の音楽学校に通わせた。14歳の彼は、すでに兄を指導していたM.G.ムルタジーナから初めて声楽のレッスンを受け、2年後にはウファ国立芸術学院の彼女のクラスを受講するようになった。 バシキリアオペラ・バレエ劇場に入団後もムルタジーナ教授に師事し、22歳でデビューしたサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で貴重な経験を積む。その後2000年にロンドン、コベントガーデンのロイヤルオペラハウスでデビューし、国際的注目を集めた後、同年、マリア・カラス国際テレビジョンコンクールでの優勝を経てキャリアをスタートさせた。同コンクールでの優勝が2001年ミラノ・スカラ座デビューやその他数々の名門劇場への出演機会を招いた。2004年、《ドン・ジョヴァンニ》のマゼットでメトロポリタン歌劇場にデビューし、以来、フィガロ、ドン・ジョヴァンニからエスカミーリョ、アッティラ、メフィストフェレスまでさまざまな役で出演し、同歌劇場の常連となっている。2004/05年にはスカラ座のリニューアル・ガラに出演し、2010年にはチャイコフスキー、ラフマニノフ、リスト、ラヴェルなどの歌曲でリサイタル・デビューを果たした。 歌劇場での活躍に加え、コンサートホールでの活躍も目覚しく、カーネギーホール、ウィーン楽友協会、東京・春・音楽祭、BBCプロムス、ザルツブルク音楽祭などにも出演している。リッカルド・ムーティ指揮シカゴ交響楽団とのヴェルディ《レクイエム》のライブ録音では、2011年のグラミー賞で最優秀クラシック録音賞と最優秀合唱録音賞を受賞した。 2015年、サンクトペテルブルクのエレナ・オブラスツォワの国際アカデミーの初代芸術監督に就任した後、イルダル・アブドゥラザコフ財団を設立し、才能ある若い音楽家の支援と振興に努めている。2019年、同財団により第2回イルダル・アブドラザコフ国際音楽祭を開催し、モスクワとアブドラザコフの出身地ウファを含むロシアの4都市で、演奏会およびマスタークラスを実施した。